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上場するメリットは? 方法や注意点を解説

事業展開が順調に進み、企業の規模が大きくなると多くの経営者が株式上場を視野にいれるようになります。しかし一方で、日本には未上場の大企業も少なからず存在します。企業が上場するメリットはどこにあり、またデメリットにはどのようなことが挙げられるのでしょうか。上場の方法、上場を目指す上での注意点などを含めて解説していきます。
目次
株式上場とは?
株式上場とは、企業が自社株式を証券取引所の各市場で自由に売買できるように公開することを指します。言い方を変えれば、上場とは株式を投資家の売買の対象として定めることです。
株式を発行し、証券市場に登録した企業は上場企業と呼ばれます。また、取引を認められた株式を上場株と呼びます。さらに、未上場企業が新規に株式を証券取引所に上場し、証券会社を通じて投資家に株式を取得させることはIPO(Initial Public Offering)、株式公開、新規公開株式などと呼ばれます。
500万社を超える日本の全株式会社のうち、上場企業は全体のわずか1%です。残りの会社は未上場あるいは非上場の会社です。
株式上場後の公開価格は、一般競争入札方式かブックビルディング方式(需要積み上げ方式)によって決められます。近年では、株の新規発行や売出しの際、引受証券会社(主幹事証券会社)が仮の条件を提示し、投資家の需要を把握して価格を決定するブックビルディング方式が主流となっています。
証券取引所と市場の種類
証券取引所には国内最大の取引所である東京証券取引所(東証)、そして大阪証券取引所(大証)、名古屋証券取引所(名証)、さらに地方取引所と呼ばれる札幌証券取引所(札証)と福岡証券取引所(福証)があります。また、それぞれ一部、二部などの市場があります。
東京証券取引所の中でも、時価総額250億円以上、株主人数2,500人以上などの厳しい条件を満たした大企業のみが上場できるのが東証一部です。国内の取引の90%はここで行われています。また、東証一部に上場する前段階の企業は東証二部に上場しています。
さらに東証には、主に東証一部や二部への上場を目指すベンチャー企業向けのマザーズ、マザーズに近い趣旨のベンチャー・中堅企業向けのジャスダック(JASDAQ)という市場があります。こうしたベンチャー向けの新興市場は、大阪証券取引所のヘラクレスや名古屋証券取引所のセントレックスなど、ほかの取引所にも設けられています。
上場のメリット
企業にとって上場することにはどのようなメリットがあるのか、以下説明します。
社会的信用の向上
株式上場することで、取引先や顧客からの信用度が劇的に向上します。上場するためには厳しい審査基準をクリアしなくてはならず、また事業や業績、財務について情報公開することで世間からの注目度、評価が上がります。そのことが新規取引先の開拓やビジネス提携にも役立つでしょう。
資金調達が容易になる
会計監査を行うことで業績開示に対する信頼度が高まり、資金調達力の増大と多様化が進みます。金融機関による融資だけでなく、一般投資家から広く資金調達を行うことができるようになります。時価発行による公募増資など不特定多数の投資家から資金を集める直接金融の道が開かれ、これらは融資と異なり返済する必要もありません。
知名度がアップする
社名と株価が新聞に掲載されることをはじめ、動向がメディアに取り上げられるなど情報が発信されるようになることで知名度もまた飛躍的にアップします。一定のステータスを得られ、企業のブランド化もしやすくなり、それらの効果が業績に反映されることも期待できるでしょう。
経営体質の改善・強化
公開準備の過程で証券会社や取引所による審査をクリアするためには、強固なビジネスモデルの構築や内部管理体制の整備が欠かせません。会計処理、法令遵守などについても一定の要件を満たすことが求められます。その結果、客観的な評価項目に基づいて経営体質が改善・強化されます。
優秀な人材の確保
信用度や知名度が上がり、上場企業という安心感も生まれることから、新卒採用や中途採用においても採用活動がしやすくなり、優秀な人材を確保できるようになります。
上場のデメリット
一方、企業にとっての上場するデメリットについても挙げてみましょう。
株式公開のための準備に時間と費用がかかる
上場審査料、新規上場料、引受手数料、上場申請書類印刷費用、監査報酬、弁護士報酬、上場(IPO)コンサル報酬など、上場する際にはさまざまな費用がかかります。スタートアップ企業の上場であれば費用は5千万円前後、準備期間には最低3年は必要といわれています。
上場維持のためのコストも必要
上場を果たした後も、上場時の時価総額に応じて年間上場料がかかります。上場を維持する限り、そのための負担が続きます。
経営の自由度が制限される
上場すると企業としての社会的責任が増加します。また多くの投資家の目的はキャピタルゲインを得ることなので、中長期的な成長戦略よりも株価上昇のための短期的で確実性の高い事業戦略を要求されます。これらにより経営者は経営の自由度を制限される傾向が高くなります。
買収リスク
大株主が強い影響力を持つようになると同時に、株式保有率を利用した敵対的買収のリスクも高まります。
企業で働く社員とっても上場のメリットはあるのか?
上場はその企業で働く社員に対してもメリットをもたらす可能性があります。士気向上などの精神的側面もそうですが、以下のような具体的な恩恵を受けることもできます。
ストックオプション
ストックオプションはあらかじめ決められた価格で自社株を買う権利です。ストックオプションを与えられた社員(や取締役)は、一定期間内であればいつでも安い株価で自社の株式を取得できます。これにより株価が上がったときなどにその株を買って売却して利益を得ることが可能です。ストックオプション制度は今後の急成長が見込めるベンチャー企業などに向いています。
従業員持株制度
従業員持株制度は社員の給与から天引きして集めた資金で自社株を購入し、拠出額に応じた配当金を得る制度です。社員は「持株会」に加入して株を毎月買うと会社から積立金額の5~30%の奨励金をもらえ、さらに配当金やキャピタルゲインも得られます。この制度も社員にとって資産形成の有効な手段になり、また企業にとっても安定株主を増やすというメリットが得られます。
キャリアアップのためのプラス材料になる
上場企業に勤務していた、何らかの形で上場に寄与したという経験を今後のキャリアアップに活かすことも可能です。例えば勤務していたベンチャーが急成長して上場を果たしたというビジネス経験は、転職市場においても大きな評価対象となるでしょう。
上場の方法
上場するにはどのようなスケジュールを組み、どのような準備をすれば良いのでしょうか。大まかな流れを説明します。
3期前
上場準備は遅くとも証券取引所へ申請する3期前から始める必要があります。上場の意思決定後は、まず未上場の企業に対して上場までのサポートを行う上場コンサル(コンサルティング会社)を選定します。監査法人、主幹事証券会社も先に選んでおくのが一般的です。また顧問弁護士による法的なサポートも不可欠です。
同時に、社内では上場準備担当者を選任し、IPOチームを編成します。コンサルとのコミュニケーションを取りながら、事業計画の策定、過年度のデータ収集、商標チェックなど必要な作業を整理し、実施していきます。
また監査法人はショートレビューと呼ばれる2~3日程度の予備調査を行い、事業計画や資本政策、業務管理体制の強化など上場に向けた課題をリストアップします。
2期前
この時期からは監査が必要となるため、ショートレビューで指摘された事項の改善、課題の解決が図られていなければなりません。とくに事業計画書の作成や内部統制システムの見直しは重要事項となるでしょう。
また会社法の規定に沿って取締役会や株主総会を開催します。さらに、上場に際してはさまざまな規定に基づくディスクロージャー書類(開示書類)が必要になります。それらを確実に作成する準備と、印刷会社の選定も行います。
前期
前記は上場企業として適格性があるかどうかの審査時期となります。2期前までに整えてきた社内体制、内部統制のためのルール、業務プロセスなどを確実に運用していることが求められます。
会社法の規定に従い株主名簿管理人も設置します。株主名簿管理人は「株式会社に代わって株主名簿の作成および備置きその他の株主名簿に関する事務を行う者」です。株主総会の開催も引き続き、法令を厳格に遵守しながら実施していきます。
申請する市場の最終選定後は、上場コンサルとの連携を図りながら書類作成などの業務を確実にこなしていきます。必要なら事業計画・資本政策の見直しや改善、最終調整も行います。
申請・上場期
定款の変更を実施します。定款変更は上場申請が遅れたり中止になったりする場合を想定してこの時期に行うのが通例です。その後、証券会社による引受審査が行われ、いよいよ証券取引所の上場審査へと進みます。
IPOが無事に完了すると上場が公表されて、ようやく上場企業として新たなスタートを切ることになります。その後は有価証券届出書、有価証券報告書、大量保有報告書など金融商品取引法上の届出書類などの作成・提出を行います。
上場の注意点
上場にはメリットの裏腹となるデメリットもあり、あえて上場しないという選択をする企業も多く存在します。上場に伴う業務、上場を維持する業務が増え、遵守すべき法令などが拡大し、株式の買い占めや乗っ取りなどの負担やリスクも背負うことになります。
上場を目指すにはこうした問題についての的確な対策も講じる必要があります。そのためには企業としての基礎体力が必要であり、なぜ上場をするのか、上場後に何を目指すのかという明確かつ確固としたビジョンも求められます。
上場には多くのメリットがありますが、同時にデメリットに関しても十分な理解をし、対策しておかなければなりません。この記事を参考に、自社の事業や状況に合った選択をしてください。
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