健全な会社経営、事業継続のためには「黒字経営」を目指すべきです。しかし、中小企業の経営者の中には税金対策のためにあえて赤字経営を続けているという人がいるのも事実です。また会計上黒字であるにもかかわらず、黒字倒産という事態に陥る会社も存在します。赤字経営と黒字経営、そして赤字経営の原因やそれを脱却するための手法について解説します。
赤字になると会社はつぶれるのか
赤字とは収入よりも支出が多いことを指します。
80万円の収入があり、100万円の支出があれば赤字です。
しかし、赤字になったからといって、即座に倒産につながるわけではありません。
大事なのは会計上の赤字ではなく、キャッシュです。
とくに取引先や銀行に支払うための現金が足りなくなり、支払(返済)不能に陥ったときに、会社は倒産してしまうのです。
つまりキャッシュが不足すれば、会計上は黒字の状態であっても会社が倒産することもあります。
黒字倒産の典型的な例は、売上が十分にあるにもかかわらず、売掛金の回収が間に合わず、手元の現金がなくなって倒産してしまうというパターンです。
売掛金とは掛け取引によって商品を販売したときの代金として発生する債権です。
資本金100万円の会社が、掛けによって150万円で商品を仕入れて、200万円で商品が売れたとします。
この時点で会計上は50万円の黒字です。
しかし、売れた分の200万円の入金が翌月の15日、仕入れた分の150万円の支払いが今月末だとしたら、手元の現金が50万円足りなくなります。
仕入先に支払うお金がないということになると、黒字なのに倒産となってしまいます。
実際にはこのような場合は、つなぎ資金と呼ばれるような借入をして対処することが多いでしょう。
しかし、銀行などからの融資が受けられない状況になっていた場合は、やはり倒産の危機に瀕してしまうことになります。
赤字経営にもメリットがある?
1年間を通して収入よりも支出が多くなり、損をしたのであれば赤字決算となります。
そして赤字決算になるような経営をすることにはメリットもあるといわれています。
とくに赤字経営の多い中小企業では、やむを得ず赤字になっているというケースだけでなく、あえて赤字決算にしている会社も存在しているのです。
その理由は以下の2点によるものです。
法人税が安くなる
黒字であれば会社は利益に対して課税される法人税を支払うことになります。
しかし、赤字であれば法人税は最低限の年7万円に抑えることができます。
そのため、経費を多くするなどして赤字決算になるよう調整する会社やわずかに黒字にするという方法をとる会社もあるのです。
赤字を9年間繰り越せる
税制上、赤字は「欠損金」と呼ばれます。
白色申告ではなく青色申告をすれば、欠損金は繰越欠損金として翌期に繰り越すことができます。
赤字を繰越欠損金にすると、これもまた法人税を安く抑えられます。
なぜなら当期の赤字を翌期に繰り越して、翌期に黒字になると、翌期の収益から当期の赤字分を差し引いて法人税が計算されるためです。
赤字を翌期に繰り越すには、青色申告する、連続して確定申告を行う、帳簿書類を保存する、そして9年以内に開始した事業年度の赤字であるという4つの条件を満たしている必要があります。
「9年以内に開始した事業年度の赤字である」というのは、今期の赤字が9年後の年度まで繰り越すことができることを意味します。
税金対策のための赤字経営は本当に有効なのか
赤字経営のメリットは、要は税金対策です。
しかし、実際に赤字経営が有効な税金対策になるのかについては疑問を持たざるを得ません。
というのも、あえて赤字経営をすることには次のようなデメリットがあり、会社経営にとってそれらの影響が大きすぎるためです。
銀行からの融資が受けにくくなる
赤字決算をしてしまうと銀行からの評価は確実に低下します。
たとえあえて赤字経営を行っていることが明らかであったとしても、そのような経営方針は不健全だとみなされます。
税金対策として赤字経営を行っているような会社は、銀行からの融資は必要ないというような割り切りが必要になるでしょう。
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対外的な信頼を損なう可能性がある
銀行からだけではなく、取引先や投資家などからの信頼度や心証も下降するおそれがあります。
アクシデントによる1期のみの赤字決算や創業赤字であればまた印象は異なりますが、常態化した赤字経営に好印象を持たれることは少ないでしょう。
今後の成長が望めない
客観的に考えて、意図的に赤字決算を出して節税をしているような会社では今後の事業発展や成長を期待するのは無理があります。
モチベーション現状維持がやっとというところではないでしょうか。
赤字決算が続けば社員のも落ち、活気もなくなっていくことが懸念されます。
赤字経営の原因
赤字には何らかのアクシデントによる急激な赤字と、根本的ともいえる原因があって起こる慢性的な赤字とがあります。
急激な赤字は取引先の倒産や契約解除、予期しない原価コストアップ、強力な競合他社の出現などによって起こります。
そしてより問題の根が深いのが慢性的な赤字で、その原因には次のようなものが考えられます。
商品力の低下・販売不振
市場のニーズの変化、競合商品の出現、目新しさの衰退などによって商品力が徐々に落ち、売れ行きも悪くなっていくという状態です。
新製品や新サービスの開発などが打開策となりますが、それらが功を奏さない場合は利益の下降が続くことになります。
販売力・営業力の低下
販売戦略や営業戦略にも新しさ、独自性、差別化が必要です。
既存顧客のみに依存し、売り方を変えずに同じような手法を繰り返しているだけでは、やはり回復は見込めないでしょう。
また単に営業社員への教育不足などによって訴求力が落ちている場合もあります。
原価率の上昇
原材料費、動力費、物流費など仕入費が上昇したことによる原価率アップが赤字につながることもあります。
顧客からの要求などによって販売単価の値下げを余儀なくされるケースもあります。
品質へのクレーム対応など、アクシデントに近い要素が加わって原価率が上昇することもあります。
人件費・設備費の上昇
採用難や離職率の増加による人材不足が引き金となって新規社員の補充が必要になる、アルバイト・パートの時給がアップするなど、人件費や採用コストの上昇が赤字の原因となるケースです。
また新規設備への投資や既存設備の維持費用が負担となることもあります。
新ビジネス開拓・投資の失敗
新ビジネスや新事業への挑戦、新ブランドの創設、既存の路線の変更、店舗のリニューアルなどで思ったような成果が出なかったことが、赤字の引き金となることも考えられます。
投資額が大きいほど失敗したときのダメージも大きく、大きな負債を抱える危険性があります。
経営の立て直し! 赤字から脱却するための手法
赤字経営を立て直すための手法を紹介します。
仕入費の見直し
多くの企業にとって原価率と密接な関係にあるのが仕入費です。
販売目的の商品を購入するのに要する費用のことですが、この額を抑えることができれば原価率の上昇も抑えられます。
ポイントは仕入費から商品の価格を決めるという考え方はしないことです。
仕入が高くなったからという理由で商品価格を上げてしまうと、消費者のニーズに合った適正価格と乖離してしまう危険性が高いからです。
まず適正価格を決めて、いかに仕入費を削減できるかを考えるべきです
。そのことが商品力のアップにもつながります。
人件費の見直し
会社にとって赤字から脱却するための最も重要な課題の一つが人件費のコントロールです。
人件費の見直し策として給料カットを行うと人材流出や社員のモラル低下が起き、一気に会社が立ち行かなくなる危険性もあります。
しかし、状況によってはリストラなどを行わざるを得ない局面もあるでしょう。
ある大企業では大幅なリストラを実行した際、残った社員の給料アップを敢行したそうです。
そのことにより、残った社員の危機感が強まると同時に会社再建に向けたモチベーションがアップして、立て直しが実現したといいます。
人件費というデリケートな課題に対し、あえてドラスティックな選択をするという選択肢もあるのです。
販売費及び一般管理費の見直し
「販売費及び一般管理費」は損益計算書に記載される項目の一つです。
販売費は営業活動全般にかかる費用のことです。
具体的には広告宣伝費、販売促進費、販売手数料、運搬費、保管費、営業社員や販売員の人件費などが該当します。
一般管理費は総務や企業全体の管理で発生する費用です。
具体的には人事・経理・役員などの人件費、間接部門の光熱費、家賃、減価償却費などが該当します。
この販売費および一般管理費は、会社の営業活動に必要な費用のうち、売上原価に含まれない費用です。
直接的に商品とは関係しないコストだけに、無駄が隠れていることが多いのが特徴です。
その内容を細かくチェックスすれば、さまざまな効率化やコスト削減の方法が見えてくるはずです。
まずは現状調査を行い、無駄の発見から始めることがポイントです。
赤字商品と赤字取引の解消
最後に基本的なことを述べますが、赤字脱却のためには赤字が発生・拡大している赤字商品、赤字取引を見つけて、それらを一つずつ解消していくことが最も効果的です。
そのためには商品もしくは取引ごとの損益分析を行ってどの程度の赤字が発生しているのかを知り、それぞれに対し有効な解決策を考えていく必要があります。
赤字を黒字に転換することが不可能だと分かればそれらを切り捨てるという判断も必要になります。
黒字化後の注意点! 黒字経営を続けるためのポイント
黒字化が果たせたとしても、そのまま黒字経営を維持していくにはさらなる努力が必要です。
黒字経営を続けるためのポイントを挙げてみます。
予算管理
原価率や人件費の上限を把握してコントロールし、黒字経営を達成・維持するには、決算に合わせた1年ごとの予算管理を行うことが欠かせません。
予算管理は生産管理、販売管理、労務管理、人事管理、財務管理などとともに必ず行うべき経営管理の一つです。
予算を設定することで来期の収入と支出をシミュレーションし、売上目標を設定することができます。
商品・取引ごとの損益管理
黒字に転換できたのなら、赤字商品と赤字取引の大半は解消できているはずです。
あとはそれらを個別に記録・監視し続け、黒字が継続または増大するよう調整を続けていく必要があります。
コスト管理の継続
仕入費、人件費、販売費及び一般管理費などのコスト管理も引き続き行っていきます。
無駄やロスが発生していないかをチェックする体制・環境づくりを行っていきましょう。
売掛金・買掛金の管理
売掛金と買掛金の管理も厳格に行う必要があります。
会計上は黒字とは関係なく、手元に常にどれくらいのキャッシュがあるのかをその流れとともに常に把握しておかなくてはなりません。
黒字倒産を招かないためにも最も大事な要素です。
赤字経営にもメリットはありますが、わざと赤字経営にすることはおすすめできません。
この記事を参考に、黒字化、黒字経営の維持について考えてみてください。