貸借対照表と損益計算書の基本
財務諸表の基本となるのが「貸借対照表」と「損益計算書」です。ここでは、それぞれの目的や内容などについてみていきます。
貸借対照表とは
「貸借対照表(BS:Balance Sheet)」は「資産」「負債」「純資産」という3つの観点から財務状況を把握するものです。
これを読むことで決算時に会社がどのような財産を持っているのか、その財源はどこから来たものであるのかを知ることができます。
つまり、資産は「資金の運用状況」、負債と純資産は「資金の調達状況」と言い換えることができます。
また、貸借対照表では「資産=負債+純資産」という式が常に成り立つようになっています。
損益計算書とは
「損益計算書(PL :Profit and Loss Statement)」は「収益」「費用」「利益」という3つの観点から企業の一定期間の経営成績を把握するものです。
また、経営成績は「会社の本業の経営成績」「会社の通常の経営成績」「最終的な経営成績」という3つに分けて考えます。
どの分野も、「収益-費用=利益」という式で考えることが基本となっています。
貸借対照表の読み方
貸借対照表は、まず「自己資本比率」を見ます。
これは資本全体に対して、返済不要である自己資本の占める割合を示すものです。この比率が大きいほど経営が安定していると判断できます。
一般的には自己資本率40%以上が望ましいといわれています。50%を超えている企業はかなりの優良企業ということができます。
なお、自己資本がマイナスの場合は債務超過の状態です。
「固定比率」は、固定資産に対してどれだけ固定資本を投下したのかを表す比率です。
一般的には、100%以内に抑えることが望ましいとされています。
「流動比率」は流動資産に対する流動負債の比率を表すものです。
流動資産は1年以内に現金化できる資産であるため、短期安全性を判断することができます。
この比率が低い場合は支払い能力不足であるため、危険な財務状況にあるといえます。
流動比率が200%を超えている場合は、かなり安全な経営状況であると判断することができます。逆に100%を下回っている場合は資金計画の見直しなどが必要な状況です。
当座資産に対する流動負債の比率が「当座比率」です。比率が高い場合は余剰在庫過多などの可能性もあります。
当座資産は、流動資産の中でも特に現金化しやすいものだけに限られているため、当座比率を使えば短期支払い能力をかなり厳密に見ることができます。
そのため、黒字倒産などの可能性がないかなどを判断しやすい指標です。
損益計算書の読み方
損益計算書は「収益ー費用=利益」という基本構造を意識して読むことが大切です。
これによって儲けがどれくらいか、費用に無駄がないかなどを確認できるからです。
また、全体を把握するだけでなく、それぞれの項目にも目を通して利益や損失の要因を探ることも必要になります。
「売上高」は会社の営業活動の状況を一目で確認することができます。
営業活動の中身まで把握するためには、もう少し分析が必要です。「売上原価」まで確認しておきましょう。
基本的な収益力をみるには「売上総利益」で判断を行います。
会社の本業全体の成績を判断する場合には「営業利益」を確認します。
ここには従業員の給与など差し引かれており、会社の営業活動の全貌を把握することが可能になります。
さらに「営業利益率(営業利益の売上高に対する割合)」を求めて収益構造が適切かどうかを判断することも重要です。
数値がよくない場合は、あらためて固定費や雑費などの経費を確認することも大切です。その場合は「販売費及び一般管理費」に注目します。
商品を販売するための費用が計上されていますが、販売にかかわる人件費もここに含まれています。
広告費なども同様ですが、営業利益率が悪い場合はこの部分に問題があるというケースが少なくありません。
売上規模に対して本当に適切であるのかを検討する必要があります。
「経常利益率(経常利益の売上高に対する割合)」も見ておくことが大切です。
営業活動だけでなく財務活動も含めた、総合的な会社の収益力を判断することができるからです。
最後に「当期純利益」を確認しましょう。ここで会社が赤字か黒字かを判断することができます。
貸借対照表の構成と作り方
貸借対照表は「資産」「負債」「純資産」の3部で構成されていますが、それぞれの部についての知識を整理しておけばスムーズに作成することができます。
資産
「資産」は「流動資産」と「固定資産」という二つに分けて考えます。
「流動資産」とは、1年以内に現金化できる資産のことを指すものです。
具体的には現金や預金、受取手形や売掛金、有価証券などがあげられます。棚卸資産もこちらに含まれます。
「固定資産」は長期にわたって会社が保有するもので、土地や建物、機械などがあります。
なお、長期間保有する投資有価証券もこちらに含まれるため注意が必要です。
表記する場合は、現金化しやすい資産から順番であることが原則であることに注意する必要があります。
負債
「負債」は文字通り返す必要のあるお金を指すものです。
こちらも「流動負債」と「固定負債」とに分けて管理されます。
「流動負債」は1年以内に返す必要があり、支払手形や買掛金、未払い金や短期借入金などがあります。
「固定負債」には長期借入金や社債などが含まれます。原則として返済期日の早いものから並べることが原則です。
純資産
「純資産」は会社の正味財産ともいえる部分で、「自己資本」と呼ばれることもあります。
これは株主の資金に関連する「株主資本」と、それ以外を表す「株主資本以外」とに分けて表記されます。
「株主資本」には資本金や資本余剰金、利益余剰金などが入ります。
「株主資本以外」には、有価証券評価差額金や新株予約権、少数株主持分などが含まれています。
損益計算書の構成と作り方
損益計算書はまず「売上高」から始まります。これは主たる営業活動から発生する収入のことです。
売上高には本業以外での収入は含まれないため注意が必要です。ここから「売上原価」を差し引くと「売上総利益」を求めることができます。
売上原価とは、製造にかかった費用や、仕入れにかかった費用などのことです。売上総益は一般的に「粗利益(粗利)」ともいわれています。
最終的な「営業利益」を求めるには、さらにここから「販売費及び一般管理費」を差し引きます。
販売費及び一般管理費は「販管費」と略して使われることもあります。
「販売費」には営業部門での人件費や広告費、「一般管理費」には間接部門での人件費や事務所の家賃などが含まれます。
企業全体の活動については「営業利益+営業外収益-営業外費用」によって求められる「経常利益」で判断を行います。
「営業外収益」とは、受取利息などの本業以外での収益のことですが、突発的なものは含まれないので注意が必要です。
「営業外費用」とは借入金の支払い利息などのことです。こちらも突発的ではないものに限られます。
最終的な会社の収益を求めるためには、まず「経常利益」に「特別利益」を足し「特別損失」を差し引きます。これによって「税引前当期利益」が算出されます。
特別利益とは、固定資産の売却など本業以外での臨時収益を指します。特別損失は災害損失や盗難損失など、突発的な本業以外での損失です。
税引前当期利益から法人税などを差し引けば「当期利益」を求めることができます。
これは「当期純利益」「最終利益」などという呼び方もされ、貸借対照表の利益余剰金の金額と一致します。
当期利益は株主配当や内部留保などに使われることになります。
貸借対照表と損益計算書の活用法
貸借対照表
貸借対照表は会社の全資産が可視化されているため、経営の健全性や安全性を数字から判断できる非常に有用なツールといえます。
漠然と眺めるのではなく、経営に影響が出る前に問題点を発見し、問題の芽を摘んでおくことが必要です。
特に資金が潤沢ではない中小企業の場合は、資金繰りを考える際にも重要な資料となります。
資金不足によるトラブルの原因の多くは、会社の根本的な財務体質にあります。
一般的に資金繰りは「キャッシュフロー計算書」で管理しますが、キャッシュフロー計算書で異常が発覚した時点では手遅れというケースが少なくありません。
会社の財務体質を根本的に改善しようとする場合は、普段から貸借対照表を活用して会社の構造的な問題点を明確にしておくことが大切なのです。
万が一資金トラブルが起きた場合でも対処できるよう、普段から安全策を用意しておくことも必要です。
例えば「売掛債権買取(譲渡)」を行う「ファクタリング」などを利用する準備をしておいても良いでしょう。
関連記事:ファクタリングとは?基本的な情報をまとめて解説
損益計算書
損益計算書も同様で、会社を改善するためのツールとして積極的に活用することが大切です。
業績不振になってしまった会社は、売上そのものよりも会社の収益構造に問題があるケースが少なくありません。
特に売上が順調に伸びて急激に成長している会社に多くみられる現象です。いかに優秀な企業でも、売上を伸ばし続けるということは不可能です。
営業活動に問題がなくても、景況などの外部要因の影響は避けることができません。
そのため、順調な時期にこそ損益計算書を活用して収益構造を引き締めておくことが大切になるのです。
もちろん、事業を拡大して成長を目指すのであれば、一定の投資は不可欠です。
しかし、人件費などの固定費は適切か、さまざまな支出に無駄がないかなどを常時注意しておく必要があります。
効率の良い収益体制を構築しておけば、売上が落ちた場合でも落ち着いて対処することができます。
まとめ
このように、貸借対照表と損益計算書は会社の経営状態を改善するためには欠かせない存在です。
貸借対照表は会社の財務体質を客観的に把握することができるという特徴があります。
また、損益計算書をみれば会社の収益構造の問題点を明確に洗い出すことが可能です。
目を通さなければいけない数字が多いことは確かですが、ポイントさえ押さえてしまえば決して読み解くのは難しいことではありません。
まずは貸借対照表と損益計算書を作り、正しく読み解いて積極的に経営改善に活用していきましょう。